恋をした悪魔
時が流れ、リリスの傷はうっすらと痕を残すだけになりました。
青年はもともとリリスの美しい顔に心奪われていたようですから
もう誘惑をするのに差し支えはないでしょう。
その夜、リリスはミルクを手渡そうとする青年の腕を引いて
ベッドへ誘いこもうとしました。
ところが、青年は今までにない厳しい表情になって言いました。
「こんなことをしてはいけないよ」
拒まれた、と気づくのが遅れたのは、
これがリリスにとって初めてのことだったからです。
屈辱でした。
――人間ごときが、この私を拒むなんて。
怒りに目がくらみ、殺意を抑えきれなくなったそこで、
リリスは大変なことに気がつきました。
魔王から託されたナイフの、最後の1本がないのです。
――たしかに魔力で胸元に封じこめていたはずなのに。
ただ殺すだけならば手段はいくらでもありますが、命令は、
骨抜きにした獲物の心臓にあのナイフを突き刺すこと。
記憶をたどると、いまわしい湖のほとりが思い浮かびました。