接吻ーkissー
私がうつむいた瞬間、ピアノの音が聞こえた。

「『亡き王女のためのパヴァーヌ』、か」

シンさんが呟くように言った。

それは、今の竜之さんの気持ちみたいだった。

竜之さんが抱えているものみたいに、私は感じた。

――ねえ、竜之さん…。

竜之さんが悩んでいるのは、私のせいなの?

私のせいで、竜之さんは悩んでいるの?

私を1人にしたくないから?

自分だけ海外へ行きたくないから?

――じゃあ、璃音ちゃんは菊地さんを待つことができるの?

心に重くのしかかっているシンさんの言葉が、とても痛かった。
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