今宵は天使と輪舞曲を。
――没落貴族。
デボネ家は今や火の車だった。
それもこれも、この疫病神のメレディス・トスカがいるせいだ。エミリアは少なくともそう考えている。
だから余計に彼女が憎たらしい。地位も、名誉も、財産さえもすべてを奪ったメレディス・トスカが――。
「グズグズするんじゃないよ! それが終わったら次は庭の手入れですからね!」
一家の主人である彼女は腰に手を当て、にべもなく命じた。
今までエミリアの存在に無視を決め込んでいたメレディスは、そこではじめて顔を上げた。
その目は鋭い眼光を放ち、形のよい片方の眉尻を吊り上げていた。気品漂う凜とした表情はまさに高潔な貴族そのものだ。
反抗的な彼女が気に入らない。
けれどもエミリアは鋭い眼光の彼女に少しばかり畏怖さえも覚えていた。美しい顔立ちだからだろうか、冷淡な表情を寄越せば寄越すほどに冷ややかさが増す。
しかしこんな小娘に狼狽えてはならない。
なにせ自分は分別をわきまえたこの屋敷の主人であり、彼女はただの同居人にすぎないのだ。
「なんだいその目は! こっちは身寄りのないお前を養ってあげてるんだよ! 口答えは許さないからね!」
エミリアは自分に言い聞かせ、腰に置いていた右手を頭上に持ち上げ、メレディスの左頬に向かって振り下ろした。
簡素な空間に冷ややかな音が響く。
彼女は振り下ろされた手の反動で横に倒れ込んだ。