今宵は天使と輪舞曲を。

 ラファエル・ブラフマン。

 彼はいったい何者なの?
 わたしに何をしたの?
 たった一度の口づけだけで彼と離れがたく思うなんてどうかしている。


 メレディスは困惑した。自分は他の淑女より、もっと分別のある人間だと思っていたのにどうだろう。出会ったばかりの男性に対して口づけだけでなく、ドレスも何もかもを脱ぎ捨てて素肌に触れてほしいと願うなんて。これではルイス・ピッチャーの言うとおり、夜を共にするためだけの娼婦にすぎないではないか。


 それにしてもいったい彼はどういうつもりでわたしの唇を塞いだの?
 ――たしかに。彼との行為はとても素晴らしいものだったと認めるわ。彼を狙う淑女たちの気持ちも分かる気がする。

 先ほど口づけられた唇を、指でそっとなぞってみる。

 思い出すのは彼の大きくて薄い唇の感触と息遣い。そして抱き寄せられた時の力強い腕。引き締まった肉体に肌の熱。


 記憶を辿っていると、急に恥ずかしくなってきた。メレディスは懐からハンカチを取り出し、口に当てる。

 道すがら、ラファエルのことを考えていたものだからハンカチを落としてしまった。メレディスは自分を叱咤し、震える手で拾い上げた。すると前方からラファエルを呼ぶ女性の声が聞こえてメレディスは慌てて木陰に身を隠した。

 声は張りがあり、凜としている。彼女はレニア・ブラフマンだ。メレディスは急に彼女とラファエルの会話が気になった。レディー・ブラフマンに気づかれないよう後を追うと、先ほど別れたばかりのラファエルを見つけて茂みに隠れた。


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