今宵は天使と輪舞曲を。

 それなのに、メレディスの心は穏やかではない。気分は鬱蒼としていて、まるで自分ひとりだけが別世界に迷い込んだかのようにも思える。
 そんな状態だから食欲はあまり進まないが、けれどもキャロラインたちを心配させるわけにもいかず、全員が集う朝食には必ず顔を出すようにしている。なるべく笑顔を絶やさないよう気をつけているつもりだ。今のところ誰にも不信がられてはいないようだ。
 一方のラファエルも何か考え事をしているようで、人気が多い時は気を抜いているのかメレディスとふたりきりになった時以外は心ここにあらずといった様子で上の空でもある。それがさらにメレディスの思考を良からぬ方へと誘うのは事実だ。
 だってラファエルとふたりきりになると必ず愛を交わす。メレディスは、その時だけは自分を見てくれていることを理解している。だからラファエルを引き止めようと必死に縋りつくのだ。

 分かってはいる。このままだとふたりの関係はいつしか崩れ去るだろうことも、お互いのためにならないことも――。
 けれどラファエルはメレディスにとって、父親以外では生まれて初めて愛した男性なのだ。失いたくはなかった。

 そんな不安が胸の奥に渦巻いている中だ。いつものように朝食を終え、自室へと戻ろうとするメレディスに、「メレディス、一緒にお茶しましょう」とレディー・ブラフマンが声を掛けてきた。

 彼女の表情はとても真剣だ――それに隣にいるキャロラインは眉間に深い皺を刻み、眉尻が思いきり下がっていた。


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