今宵は天使と輪舞曲を。

「貴方、最近裏庭で知らない男の人と長話をしているわねその男性は誰?」
 そう尋ねたメレディスの両手は汗で湿っている。スカートを握り締めた拳の中にはしわくちゃになっている。きっとこの拳を解けば、二箇所の小さな皺がくっきりとした跡が残っているだろう。この跡を見たベスはきっとメレディスを心配するに違いない。なにせ彼女はメレディスの世話係をこなしてくれるばかりではなく、没落貴族の娘にさえも立派な貴族として扱ってくれる、とても優しい心の持ち主なのだから。

 メレディスが意を決して尋ねたものの、ラファエルは無言だったから、さらにまくしたてるように話した。

「貴方は気付いていなかったかもしれないけれど、最近、わたしたちの間で会話がないでしょう? 貴方にとって、わたしはただの肉体関係でしかないということ?」
「違う!」
 もし、そうだと肯定されると思うとメレディスは苦しくて居ても立ってもいられないだろう。しかし、どうやらメレディスが胸の中に溜めていた不安とは異なるようだ。ラファエルは即座に否定した。
 彼はどう説明すれば良いのか考えている様子で、普段ではあまり聞かないような言葉を自分に対して毒づき、乱暴に頭を掻いた。
 ラファエルのこういう取り乱した姿は初めて見る。メレディスにとって、今の彼の反応はとても新鮮だった。
 なにせラファエル・ブラフマンといえばお茶目な部分も持ちあわせているが、普段は冷静沈着で、何が起きても動揺する気配さえ見せない。どこか人間離れした部分があったからだ。
 こういう人間らしい一面があると分かれば彼もまた自分と同じ人間なんだと安心できる。


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