今宵は天使と輪舞曲を。
自分はどこの令嬢でもなければ貴族でもない。没落した、ただの貧しい娘だ。もう堕ちる所まで堕ちている。そんな小娘をいったい誰が何のために狙うというのだろう。
たしかに彼が言うとおり、ラファエルの――ブラフマン家の次男と結ばれることになればその可能性も否定できない。
けれど、それならメレディスを陥れるよりもラファエルを誘惑すれば済むことだ。こんなどこの馬の骨かも分からない自分より着飾った淑女であればきっと男性は誘いに乗る。彼がどんなに立派な紳士だとしても、だ。
そこまで考えたメレディスの胸に針を刺すような痛みが走った。けれども不安な気持ちを追求しなかった。
今はまだ、彼に選ばれたという優越感を味わいたかったのだ。だからメレディスは顔を上げ、わざと明るい口調で話す。
「人攫いは牢の中ならとりあえず安心かしら。違うと思うけれど、もしヘルミナが犯人に荷担しているとしても、貴方が守ってくれるんでしょう?」
「必ず守る」
彼は真っ直ぐな視線をメレディスに向けたまま力強く頷いた。
今はそれだけで十分だ。メレディスが静かに目を閉じる。それを合図にふたりの唇が重なった。唇を彼の舌がノックする。メレディスは口を開いて彼の舌を招き入れると両腕をたくましい背中へ伸ばす。彼の骨張った手はメレディスの頭を固定すると、互いの口内はより深く混じり合った。もうどちらの領域かさえも分からない。互いに唇を貪る中、彼の片方の手が背中から移動して胸の膨らみに触れた。