今宵は天使と輪舞曲を。
Act Ⅴ・絡み合う糸。

§ 01***焦り。




 ラファエル・ブラフマンとメレディスが結婚する。この結末は誰の目から見ても明らかだった。今やメレディスが居る所にラファエルの存在が必ずある。周囲の視線を憚ることなく、ぴったりくっついている。メレディスの頬は薔薇色に染まり、グレーの目はまるで色を取り戻したかのように鮮やかに輝いている。彼女は恋する女性の目をしていた。――ヘルミナにとって、今のメレディスは目障りにも甚だしい限りだ。
 そんな二人の関係をあたたかく見守っているのはブラフマン家の住人たちだ。彼らは着々と結婚の準備を始めている。もはや反対の異を唱える人間は誰ひとりとして存在しない。

 一方、これまでずっとブラフマン家に取り入ろうと必死だったエミリアとジョーンは今やまったくの別人に成り果てたかのようだ。乗馬の一件以来、二人は人が変わったようにメレディスの後見人としてブラフマン家の遺産を少しばかり分けてもらえることに大喜びで屋敷に帰りたがらない。以前の二人なら、メレディスのおこぼれさえも許さなかったというのに、だ。

 ヘルミナは焦っていた。
 このままではこの世でただひとりきり唯一の存在だと信じている男性と結婚は愚か一緒にいる時間さえ消えて無くなってしまう。もしかすると、彼は自分を見限って別の女性に乗り換える恐れもある。今はまだ大丈夫だ。彼も自分を好いてくれているという自信はある。けれどもいつしかヘルミナは年を積み重ね、若さを失っていく。ヘルミナは知っていた。


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