今宵は天使と輪舞曲を。

 いつ気付いてくれるかは分からないが、きっと彼のことだメレディスの姿が見えないと知れば懸命に捜してくれるに違いないのだ。
 ――必ず上手くいくわ。
 メレディスは不安に苛まれる気持ちを落ち着かせるためにそう言い聞かせた。比較的動きやすい衣装に着替えると部屋を出た。


 勝手口は使用人が行き来している。ラファエルは、メイド長であり、メレディスの世話係を務めてくれているベスにだけはヘルミナの行動に注意するよう説明してくれていた。けれども今に限ってはここで止められるのはこちらとしても不本意なので、敢えて通常通り門を抜け、使用人たちの目に触れないよううまく抜け出すことに成功した。
 屋敷内では何度かメイドとすれ違ったものの、別段気にされるふうでもなく、お辞儀のみに留まった。
 ヘルミナの足取りは速い。やはり事を急いているのはよく分かった。メレディスは自分に落ち着くよう言い聞かせ、ヘルミナを追った。

 小径に出ると馬車が見えた。ヘルミナとメレディスはその馬車に乗り、さらに屋敷から離れた。
「少し馬車に酔ったみたい。外の空気が吸いたいわ」
 メレディスは胸を抑えながらそう言うと、ラファエルが探し出してくれた両親の思い出が詰まったブローチを胸元から外して窓から落とした。
 ――この道しるべをきっと彼が見つけてくれる。
 そう信じて――。

 いったいどれくらい経っただろう。さらに馬車を走らせること一〇分程度、間もなくして森の中へ入った。すぐ目の前には人の手入れがされていない古びた納屋があり、床板は所々腐っているようだ。歩く度にみしみしと嫌な音を立てる。


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