今宵は天使と輪舞曲を。

 納屋は森の中ということもあって薄暗い。
「連れてきたわ」
 ヘルミナが奥に向かって声を上げると、そこに人影があることに気が付いた。長身で大柄なことから男性だということはすぐに分かった。
 一歩前へ出ると、そこに居たのは短い刈り込みが入った黒髪に日に焼けた浅黒い肌。自分がよく知っている相手――。
「ルイス・ピッチャー」
 メレディスを見る彼の目は欲望に塗れている。鷲鼻は大きく膨れ上がり、興奮しているように見えた。その姿がさらにメレディスを追い込む。
「やあ、待っていたよ。メレディス・トスカ」
 彼はそう言うと筋肉質な腕を広げてこちらへ一歩進み出た。
 途端にメレディスは悪寒に見舞われる。
 そう、彼こそがメレディスを追い詰めた犯人に違いないのだ。自分の手を汚さず、他人の力でメレディスをどうこうしようとする薄汚い手口はまさに、彼らしいやり口だ。
 ――ああ、彼の仕業だと、どうしてこんなことにも気付かなかったのかしら。

 彼は以前から世間の注目を得たいがためにメレディスと結婚したがっていた。しかし間にラファエルが入ってきたことですべてが狂ったのだ。だから彼は人攫いを雇い、メレディスを襲わせた後にヒーローとして登場してそのまま自分を連れ去り結婚する手筈だったのだろう。
 おそらく、ヘルミナは利用されているに違いない。

「来ないで! 人を呼ぶわ」
「呼んでも誰も来ないさ。外で待っているのはおれの息がかかった者だからね――それにしても」


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