今宵は天使と輪舞曲を。
「メレディス!」
勢いよくドアを開けば、メレディスはいなかった。代わりにナイトテーブルの上で無造作に置かれた手紙に気がついた。彼女が書いたであろう手紙には、『ヘルミナと一緒に屋敷を出ること。道しるべを残していく』と書き記されていた。読み終えるなりラファエルはメレディスを探す。
メレディスにはくれぐれもひとりで出歩かないよう釘を刺していた。それなのに、なぜ彼女は糸の切れた凧のようにすぐどこかへ飛んでいってしまうのだろうか。ラファエルは彼女を置いて屋敷を出た自分に対しても腹が立つと同時に、メレディスに対してももどかしい気持ちになっていた。
ヘルミナの姿がないかも確認していると、メイド長のベスがやって来きて、厩舎の方でヘルミナと馬丁が何やら言い争いをしていると話した。
なぜ彼女が戻っているのだろう。メレディスの手紙によれば、彼女とヘルミナは九時過ぎにこの屋敷を出たのではないのか。
ラファエルの中でますます不安と緊張感が高まる。厩舎は屋敷の裏手にある。それほど遠くない場所にあるのに、この距離がとてももどかしく、いっそう遠く感じる。急いで向かうと、ヘルミナが馬丁を叩いている姿が見えた。彼女はとても取り乱しているらしいことはすぐに理解できる。けれども今はヘルミナの気持ちを窺っていられるほどの余裕はない。ラファエルが馬丁を押し退け、ヘルミナの手を掴んだ。