今宵は天使と輪舞曲を。

 腕の自由が解けていたメレディスは、ナイトテーブルの上にあった、馬に跨った騎士を形取った文鎮を彼の額目掛けて振り下ろした。鈍い音と同時にルイスがベッドから転がり落ち、低く呻る声を聞いた。今のうちだとメレディスはドロワーズを引き上げその場から逃げようと試みる。しかし彼はほんの一瞬怯みんだだけで、負傷した額を抑えながらすぐに立ち上がった。

「このアマ! いい気になるな!」
 額を抑えた手に真っ赤な鮮血がこびり付いているのを見た彼は逆上し、メレディスの足を引っ張った。メレディスはふたたびベッドの上に倒れ込み、ルイスにのし掛かられる。そうかと思えば何度も両頬に平手打ちを受けた。

 あまりの痛みに気絶させられそうになるのを必死に堪えた。
 義母からも何度この暴力を受けただろうか。女性と男性の力の差は歴然だが、それでも学んだものは大きい。メレディスが今できることがあるとすれば、自分自らが舌を噛み切り、口の中を傷つけないようにと歯を食いしばることだ。そうして悲鳴も上げずに過ごせば、相手は必ず飽きてくる。それはとてつもなく長い、精神力と激痛の戦いでもあった。それでもなんとかこの状況から逃れるためにメレディスは懸命に頭を働かせる。叩かれ続ける中でいくらか目の端にちらついたのは、カーテンの側にあるアルコールランプだ。
 これは一か八かの勝負でもあった。けれどもこのまま何もせずに終わればきっと自分は玩具のような扱いを受けるだけなのだ。


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