今宵は天使と輪舞曲を。
「君はいったい――!?」
ラファエルが振り返ると、女性の姿は跡形もなく消えていた。
ラファエルはゆっくり、けれどもできるだけ早く、女性が指さした方へ急いだ。
室内に入ると、轟々と燃え盛る炎と煙に巻かれる中でほんの数秒、人が倒れている姿を確認できた。間違いない。メレディスだ。炎に取り囲まれてはいるものの、彼女の目で見る部分に限ってはまだ無事だ。ラファエルは自分の着ている湿ったコートを脱ぐと、彼女に襲いかかろうとしている炎を叩いた。一瞬だけ彼女を取り囲んだ炎が揺らめく。
「メレディス! メレディス!」
彼が呼びかけても反応がない。
ラファエルは倒れているメレディスの方へ急いで駆け寄り、抱え上げた。彼女の意識はなく、ぐったりしている。これはとてもよくない兆候だ。
幸いにも窓が開いていたおかげである程度の煙は外へと逃げてくれている。
しかし彼女が危機的状況に陥っていることには変わりない。
ラファエルは無我夢中で外を目指した。ここで彼女を失うわけにはいかない。メレディス・トスカこそが、長年ラファエルが求めていた運命の女性なのだ。
愛馬が暴れ出し、ラファエルが命を落としそうになった窮地を救い出してくれたのは扇の中で口元を隠し、ただ淑やかに座している女性ではない。少々皮肉的ではあるし、減らず口も叩く。馬が大好きでお転婆な部分もある勇敢で知的な女性、メレディス・トスカ――自分には彼女しかいない。
なんとしてでも彼女を助け出す。その一身でただひたすら足を動かし続けた。