今宵は天使と輪舞曲を。
§ 06***虚ろな世界。
小鳥たちの囀りが聞こえる。
カーテンの隙間を通り抜けた明るい白の光が寝室を照らす。
――今日も朝がやってきた。
ルイス・ピッチャーの別荘が丸焼けにはなったものの、まるで火を消さんばかりの勢いであれから雨が三日三晩降り続け、四日目にしてようやく晴れた。火事も無事に消えたとの情報が得られたものの、しかしすべてが落ち着いたわけではなかった。
元々は自分の部屋だった寝室に、彼女は眠っている。
一週間が経過したが、メレディスの意識は依然として戻らないままだった。息はあるのだが、そのまま目を覚まさず、昏睡状態が続いている。
無理もない。火災現場、火の元で彼女は倒れていた。ということは、大量の有害な煙を吸いっている可能性があった。それでも脈があるのが奇跡だと医師に言われたが、彼女が目を覚まさないのであればその言葉なんて何の慰めにもならない。彼女自身に外傷の形跡はほとんど無い。
――とはいえ、まったく外傷がないというわけではない。彼女の頬はよっぽど強く引っぱたかれたのか、赤く腫れている。それに発見した当初では胸元がはだけていた。奴に無理強いされそうになった所で抵抗したのだろう、大人しくさせるために手を上げたに違いない。
ルイス・ピッチャー。奴には腸が煮えくりかえるほどの強烈な怒りしかない。女性に手を上げるなんてとんでもない大馬鹿野郎だ。
奴の別荘が火事になったことで事件は公になり、警察が動いている。しかし行方をくらましているらしい。