今宵は天使と輪舞曲を。

「わたしと貴方との間に遭ったすべての出来事を話します」
 そう発言した彼女がまさか彼を裏切るとは想定外だったのだろう。自信たっぷりなバリトン声がひっくり返った。
 けれども驚いたのは彼だけではない。今までどんな人間に対しても言いなりだったヘルミナが自ら発言するとはその場にいる誰しもが想像できていなかった。彼女は初めて、自ら進み出て声を上げたのだ。

「彼女は少し精神的におかしくなったんだ」
 周囲を窺いながら話す彼はたどたどしい。
 こうなればルイスが道化のように見えるから滑稽だ。
「そうだヘルミナ、一緒においで。病院に連れて行ってあげよう」
「いやよ、触らないで!」
 ヘルミナの腕を引っ張ろうとするルイスを見ていると、さらに嫌悪感が増す。
 メレディスはこれまでに感じたことのないほどの力が拳に入るのを感じた。そのまま一歩前に進み出ると、筋肉質なみぞおちに強烈な拳をお見舞いした。
 メレディスに強烈な一撃をくらったルイスは小さく声を漏らすと、そのまま前のめりに倒れ込む。
 メレディスも振動で倒れ込みそうになった。それでも倒れなかったのは、ラファエルの力強い腕が彼女を支えていたからだ。

「ピッチャー男爵、女性を囲うなんてとんでもない話だ。女性は尊ぶべき存在だとぼくは思うね。ぼくの母はぼくを含め、三人もの命を与えてこの世に送り出してくれた。その愛は尊敬の価すべきものだ。男にはできないことを女性はやり遂げてくれる、少なくともぼくにとって、母もメレディスも偉大な存在だよ」
 ラファエルがメレディスを支えながら話し終えると、タイミング良く馬車がやってきた。


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