今宵は天使と輪舞曲を。

「ラファエルは、怪我はしていない? キャロラインから聞いたわ、ルイスの別荘は全焼するくらい炎の勢いは恐ろしいものだったんでしょう?」
「大丈夫だよ、ぼくたちは本当に奇跡的に助かったんだよ」
 そう言って、彼は胸元のポケットに手を伸ばし、エメラルド色のブローチを取り出すと、メレディスに手渡した。
 このブローチは忘れもしない、両親の形見だ。
「君の大切なものだろう?」
「ああ、ラファエル!」
 ヘルミナと一緒に納屋へ向かう途中に道しるべとして落としたブローチを彼は見つけてくれたのだ。彼はこうしていつだって自分の望みを叶えてくれる。
 メレディスとって、彼こそが運命の男性なのだとあらためて実感する。
 とたんに胸がいっぱいになって、目頭が熱くなる。メレディスは彼の腕の中で静かに涙を流した。
「メレディス、泣かないでくれ。君が泣いてしまうとぼくはどうして良いか分からなくなるんだ」
 困ったような口調はとても優しくて、メレディスの胸を振るわせる。
「メレディス……」
 耳元でそっと名前を囁かれ、顔を上げると互いの唇が優しく重なった。
 啄むような口づけはすっかり冷たくなっていた心も溶かす。
 ラファエルの新緑の目が、メレディスを捉えて放さない。うなじに触れる彼の手の感触がとても心地好い。
「わたし、貴方とはもう二度と会えないと思ったの――とても悲しかったわ」
 ルイスに囚われたまま逃れられないかもしれないと想像した時、深い悲しみと絶望が過ぎった。ラファエルに会わずに屋敷を出たことをとても悔やんだ。


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