今宵は天使と輪舞曲を。

 本当なら彼女を呼び止めておきたいところだが、何分まだそこまで親密な関係にも達していない。


「また会えるかな?」

「貴方がわたしと話したいと思うかぎりは……」


 ラファエルの問いに彼女はにべもなく答えた。
 彼女の真意は果たしてどんなものなのか。
 しかし彼女はラファエルを拒んでいない。少なくともまだ話せる機会はあるということだ。

「それは嬉しいな」

 ラファエルはにっこり微笑んで見せると彼女の左手をそっと掬い取った。

 手の甲に軽く触れるだけの口づけを乗せる。それは紳士が淑女にするようなほんの挨拶のようなものだ。しかし彼女の反応はとても新鮮だった。頬が薔薇色に染まる。それからラファエルの手から引っこ抜いたかと思えば早足で去っていった……。

 彼女の立ち去り際、マグノリアにも似た馨しい香りが鼻を掠め、ラファエルは目眩を起こした。

 彼女の何もかもがラファエルの心をくすぐる。

「ねぇ、まだ会って間もないけれど、わたしは貴方が好きよ」

 果たして去っていく彼女の背中に話しかけるキャロラインの声は届いただろうか。

 会場の出入り口の方で合流した彼女を咎める細身の女性はいかにも神経質そうだ。魅力的な彼女があんな家庭で育っているなんてラファエルには信じられなかった。


「彼女は誰だ?」

 目を細め、去っていく彼女の姿を見届けながら、ラファエルは口を開いた。


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