今宵は天使と輪舞曲を。

「メレディス・トスカ」
 キャロラインに求めた答えはやって来た兄のグランによって返された。
 どうやら彼は取り巻き貴族たちから解放されたようだ。

「四年前に両親を亡くされて、今は意地悪な叔母に引き取られているわ」

 続いてキャロラインが話した。彼女の目はラファエル同様、誰もいなくなった出入り口に向いている。

「意地悪?」
 ラファエルとグランは同時に眉を潜め、声を合わせて訊ねた。

 キャロラインは肩を竦めてみせた。

「もっとも、皆は違うと思っているけれど、ね。だっておかしいじゃない。大切にされているのならどうして壁に張りついていなきゃいけないの?」

「彼女がそれを望んだからじゃないのか?」とグラン。

「本当にそう思う?」

 キャロラインが意味深に訊ねた。

「――いや」

 ラファエルは空かさず首を振った。

 さすがはキャロラインだ。想像力のたくましさについて彼女を抜きん出る者はいない。ラファエルは妹の言うとおりだと思った。
 キャロラインの推測どおりだとすれば、メレディスのあの自信がなさそうな表情もすべて合点がいく。
 ラファエルが思うに、彼女はもっと快活なはずだ。それにユーモアだってある。何より、笑い声がたまらなく好みだ。


「彼女が気になるのか?」
「そうだね」

 グランの質問にラファエルは素直に頷いた。


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