今宵は天使と輪舞曲を。
ミス・トスカは不思議な女性だ。媚びてくる様子もなければ愚痴のひとつもこぼさない。貴族の女性特有のねっとりとした視線も何もないのだ。
そして何より、むせ返るようなきつい香水の香りがない。彼女の残り香はとても甘く、馨しい。マグノリアの香りが今もラファエルの鼻孔に残っている。
「また会えるわよ」
「なぜそう言い切れるんだ?」
「だって彼女の引き取り人、お金に困っているみたいよ。お金の使い方がなってないもの。領主としては最悪。以前のように返り咲くために必死で、躍起になって娘の花婿を探しているわ。母親は自分の娘たちにいい結婚相手を見つけるのに大忙しなのよ。そんなの愚か者のすることでしょう? でもメレディスは別――」
キャロラインはそこまで言うと、ため息をひとつついた。
「わたしね、彼女がすごく気に入っちゃった。だって全然気取ってないんだもの。少し話しただけでも感じの良い娘だってすぐにわかったわ。わたしたち、きっといい友達になれるんじゃないかなって思うの」
夢見がちな妹はこれまで友人とも呼べる相手はいなかった。それはひとえに彼女がブラフマン家であるが故だ。
ラファエルが抱えているような悩みを、妹のキャロラインも抱えていた。
しかしそれもメレディスの登場で終わりを告げようとしている。キャロラインは天井に飾られているシャンデリアに負けないほどのアンバー色の目を光輝かせていた。