魔王と王女の物語
そろそろ我慢も限界には来ていたのだが、

魔王はその状況だからこそ、じっと耐えて、ラスが熟すのを待っている。

――明け方部屋を抜け出し、

内側からは出ることはできるが、外側からは中へ入れないように強固な魔法で錠をかけて1階に下り、

忍び足が猫以上に達者な魔王はそっとドアを開けると…


ベッドの端っこと端っこで、身体がくっつかないように眠っているティアラとリロイを見てほくそ笑んだ。


「順調順調」


悪巧みばかりしてくつくつと喉で笑うと塔を出て、鶏や馬や牛に餌を与えているエリノアの背後に立った。


「早いな」


「きゃっ!?…もう、びっくりさせないで下さい…」


純潔を奪われ、コハクの虜になったエリノア――


だがこの男は自分を見ていない。

それだけは、わかる。


「昨日はよかったぜ」


耳元で声を低くして囁いたコハクに背筋がぞくりとなりながらも、水の入った桶を置いた。


「…私をエリノアと認識して抱いてくれたのですか?それとも…」


「チビの身代わりに決まってんだろ。お前だって、いい思いしただろ…?」


――何かとても恐ろしく真っ黒なものに呑み込まれそうになって、一歩後ずさりしようと思ったのに…身体は一歩前進してしまった。


「身代わりでもいい。また…会いに来てくれますか?」


「何年後…何十年後…何百年後でいいならな。その時もやっぱりお前はチビの身代わりだ」


意外と優しい手つきでひよこを手に取ったコハクの美貌に見入り、その腕に触れて永遠に愛することを誓う。


「構いません。約束してください」


「じゃあ契約完了だ。俺以外の男を愛したら、お前は再び百年の眠りに落ちる。契約を違えるなよ」


「はい、誓います」


あまりにも理不尽な契約だったが、コハクとの絆ができたように感じてエリノアは喜び、

そしてコハクは何の罪もないエリノアに契約という名の呪いをかけて、縛った。


「コー、もう起きてたの?」


「早いな、どうした?」


「コーが横に居ないから…」


目を擦りながらラスが出てきて、即座に魔王の関心はラスへと移る。


エリノアはただ微笑んだ。
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