魔王と王女の物語
エリノアが、コハクが大穴を開けた茨の前まで見送りに来て、手を振った。


「気が向いたら訪ねる。ここ塞いとくから外には出るなよ」


「はい!」


馬車にはすでにティアラが乗り込んでいたが…

ラスはリロイともティアラとも言葉を交わさないまま、俯いていた。


…コハクも何か隠し事をしている。

エリノアと一体何があったのか聞きたかったが…またさっきのような思いにはなりたくなくて、聴けずにいた。


「チビ、中に入れよ」


「コーと一緒に入る」


自分にべったりなラスに内心歓喜しなながら背中を押して乗り込ませると、ラスとティアラの目が合い…2人が遠慮気味に笑みを交わした。


「ラス…あの…リロイのことですが…」


「リロイがティアラの“勇者様”なんだよね?ってことは…私の“勇者様”じゃないんだよね?」


率直に聞いてきたラスのグリーンの大きな瞳は真剣そのもので、

ラスの隣で脚を組み、腕を組んでにやにやしている魔王のことが気にかかったが…素直に頷いた。


「そうだったらいいなって思ってるけど…でもラス、リロイはあなたのことを…」


「あーなんか腹減った。チビ、これ手作りパンだってさ。お前も腹減ったろ?」


ティアラの声を掻き消すようにしてコハクが急に喋り出して、

やっぱりティアラはリロイのことを“勇者様”だと思っているのだと認識し、

そして…ラスはあっさりと“私の勇者様はリロイ説”を打ち消した。


「そっか、じゃあ私、ティアラとリロイを応援するね。ティアラの“勇者様”なら…リロイはレッドストーン王国の騎士になっちゃうんだよね。…離れてくんだね…コー…寂しいな…」


うなだれて肩に頭を預けてきたラスの腰に腕を回して引き寄せると、ラスの頬をぺろぺろと舐めて可愛い声を上げさせる。


「くすぐったいよコー」


「お前たちが友達同士なら小僧がボインの婿になったっていつでも会えるんじゃね?ま、俺はずっとチビの隣に居るけどな」


「ほんと?コー、大好きっ」


頬にキスをされて、魔王有頂天。


――ただティアラは無理矢理笑顔を作ってリロイを想った。


本当に私の“勇者様”ならいいのに、と。

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