魔王と王女の物語
馬車がコハクからどんどん離れて行ってしまい、ラスは落ち着きがなくなってしまって、リロイを呼び止めた。


「馬車を止めるから!コーを置いてけないよ!」


ぎゅうっと手綱を思いきりしぼると馬が止まって、リロイが引き戻してきた。


「ラス、あいつは魔王なんだよ。負けるはずがない」


「それでも!コーのこと…心配だもん…」


――リロイがティアラの“勇者様”だとすれば、もうこれからはリロイに頼ってばかりいられない。


ラスが馬車から降りて、コハクの居る方向をずっと見守っていて、

リロイはそれが歯がゆかったが…

ようやくラスと言葉を交わせたことで、躊躇しながら隣に立つと…半歩距離を取られた。


「…ラス?」


「ティアラのとこに居てあげて」


「どうしてそんなこと言うの?君は王国の王女で、僕は白騎士団の隊長だよ。僕には君を守る使命が…」


「私のことはいいの。コーがずっと傍に居てくれるから、リロイはティアラのとこに居てあげて」


こちらを見ようともせずにそう言ったラスに対して無性に腹が立って腕を掴もうとした時…


「あ、コーだ!コー!」


ぷらぷらとゆっくり歩きながらラスに手を振る魔王の姿。


右の頬が大きく切り裂かれていて、ラスは脚を縺れさせながらコハクに駆け寄ると抱き着いた。


「なんだチビ、寂しかったのか?可愛い奴め!」


くしゃくしゃと髪をかき混ぜられても離れないラスの身体を抱き上げて、イライラしているリロイに優越感たっぷりの笑みを浮かべつつ、

まだ血が滴っている頬を見てラスが真っ白なハンカチで押さえつけた。


「コー、痛くない?」


「いーや、痛い。急に痛くなった!ぺろぺろしてくれたら治るんだけど」


「うん、わかった」


「ばっちこい!」


その前に自分で傷ついた頬にちょっと手で触れてラスにわからないように止血を施すと、

何の疑いも持っていないラスが頬を舐めてきて、


魔王、テンションMAX。



「あー気持ちいー。違うとこもぺろぺろしてほしいなー」


「違うとこ?どっか痛いとこあるの?」



にやにや笑う魔王はただただ色ぼけしていた。
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