魔王と王女の物語
しばらく馬車が走り続けて、

この馬車の中に居る間だけはラスを独り占めできない魔王はまたベルルの羽を引っ張ったりして遊んでいた。


「ねえ、ティアラは神様に会ったことがあるの?とっても綺麗な方だってフィリア様がおっしゃってたけどお会いしてみたいなあ」


「実は私もお会いしたことはないの。魔王を除く魔法使い全員が力を失って、途方に暮れた母が何日も眠らずに神に祈りを捧げたらしいわ。そしたらお会いできて、魔法を使えるようにして下さったらしいの」


教本などによる言い伝えでは、

神の姿は金色の髪、藍色の瞳、絶世の美貌を持つ男らしく、楽園と呼ばれる聖地でいつも見守り続けてくれているという。

それはまるで“勇者様”の理想像のようで、ティアラとラスがうっとりすると…

ラスの膝枕で寝転がっていたコハクが雰囲気をぶち壊しにするような一言を放った。


「そんなのが実在するのなら魔物とか居ないんじゃね?」


「え、そうなの?見てみたかったなあ。金色の髪ってだけで男の人ってかっこよく見えるよね」


「うん、見える見える」


相槌を打ってきゃっきゃと騒ぐ2人…いや、ラスに対して不満を持った魔王が起き上がると、

ラスの両頬を押さえて自分の方に向けさせると、にやーっと笑った。


「よーく見てろよ。1回しかやんないからな」


「え?」


――コハクが真っ黒なマントを頭からすっぽりと被ったので、ティアラと2人でじっと見つめていると…


ゆっくりとコハクの髪が見えて…

その色に、ラスとティアラの口があんぐりと開いた。


「コー!?髪が…金色だよ!?」


「ふふん、これっくらい朝飯前だっつーの」


ラスとティアラの“勇者様”の理想像。

金色の髪に、藍色の瞳。

ただ…

表情はどこまでも屈折していて、


端的に言えば、Sっ気全開の勇者様。


「コー、すごーい!“勇者様”みたい!」


「どうだ、恐れ入っただろ?わ、おい?いきなりグイグイだな」


膝に乗っかってきたラスがまじまじと藍色の瞳を覗き込んで、金の髪に指を潜らせる。


「すごいよコー…ほんとに“勇者様”だよ…」


魔王、どこまでも有頂天。
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