魔王と王女の物語
ラスとは離れたくなかったが…

リロイよりも先に魔物を討伐して町の住人を救い出せば、ラスにものすごく誉めてもらえるだろう。


…そう考えた魔王は、警戒しながら前進するリロイから離れてすたすたと霧の中へ消えて行った。


「おい、影!?」


「話しかけんな。チビの“勇者様”になるのはこの俺だからな」


――いっそ清々しいほどにリロイを無視して坂の上を上っていくとだんだん急な勾配になり、森への入り口があった。


「いちいち倒していくのもめんどいし、性じゃないけど隠れていくか。ベルル、出てくるなよ」


「もちろんですよ!こんなとこ早く出て行きましょうよ」


不安で喋りまくる黒妖精をマントの中に押し込むと、口角の上がった薄い唇が何かを唱え、魔王の身体は…透明になった。


意気揚々と森深くへ分け入ると、昨晩町で暴れていた大型のトカゲ類の魔物やライオンに翼の生えたような魔物など10頭程が群れていた。

ただコハクの御眼鏡に適う魔物は居なかったのでがっかりした時――


「…ん、見つけたぞ」


身体の芯にびんびんと伝わってくる強力な魔法の力。

どこかで感じ取ったことがあるが、飽き性で興味のないことは一切記憶に残さない魔王は、岩山の前で立ち止まった。


…行き止まりだったのだが、確かにその奥から魔法の力を感じ取り、長い腕を伸ばすと掌に火球が生まれて岩盤に炸裂し、ぽっかりと穴が開いた。


「よう、助けに来てやったぜ」


「だ、誰だ、せっかく隠れていたのに!」


百人近い住人を背に庇い、リーダーらしき男がコハクの前に立ちはだかる。


白いローブ姿――まさしく、魔法使いだ。


「お前の手のそれ、見覚えがあるぞ。どこで手に入れた?」


コハクが指先ひとつで崩壊させたホワイトストーン王国を守っていた聖石の大きな欠片は、コハクを待っていたかのようにして一段と輝き、住人を驚かせた。


「私が拾ったんだ。今までこの石で魔物をやり過ごしていたのに…どうしてくれるんだ、これじゃ死んでしまう!」


「死なねえよ。チビに誉められたいから全力で助けてやる。どうしてこうなったか後で聞かせてもらうからな」


魔王、大暴れの予感に舌なめずり。
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