魔王と王女の物語
コハクの後ろ姿と、壁についている手の間に美人の女が居ることに…


ラスはちょっとだけ胸がぎゅっと痛くなって、俯いた。


「コー…何してるの?」


「だからー、後始末。町で待ってろって。約束したろ?」


「…うん。じゃあ…先に下りてるね」


黒いマント姿のコハクがにこっと笑ったが、女の顔は…とろけた表情をしていて、しかも片腕はコハクの背中に回されていて、


あんな風にコハクに触れていいのは自分だけなのに…とか思ってしまって、無理矢理視線を剥ぐと駆け出した。


「ふう、危ねえ危ねえ」


少し焦りつつも魔王は瞳を閉じて、目の前の女にラスの姿を重ねた。


かなり不毛ではあったが、実体に戻るまではラスは抱かないと決めていたので、その熱い想いを女にぶつけて、紛らわせた。


――洞窟から逃げるようにして戻って来たラスの肩を抱いてリロイが町まで降りて宿屋へ戻ると、


町に残っていたティアラが村長と思しきヤギのように真っ白な髭をたくわえた男と、例の魔法使いから話を聞いていたところだった。


「ラス!突然飛び出して行ったからものすごく心配したわ」


「…うん…ごめんなさい…」


そのままとぼとぼと2階の部屋へ消えて行ってしまい、リロイはラスのことが心配だったが、どうして魔物が町を襲ったのか、事情を聴いた。


「先週起こった地震がきっかけで、あの穴を塞いでいた石が崩れてしまったのです。そこから魔物が…」


「それで霧の出る魔法を使って魔物を攪乱して、結界の魔法を使って町に閉じこめたんですね?」


「え、ええ…まあ、そうです」


掌大のサイズの聖石を懐に隠したまま男が嘘をついて、住民たちもその件には口を閉ざした。


聖石は、王国の残骸から勝手に持ち出したもの。

誰の手でもその力を引き出すことができるほどの魔力を備えたままがれきの中から見つけて、勝手に使っていた。


…だから誰もリロイとティアラに正確なことを話す者はなかった。


「よう、戻ったぜ」


町の英雄ともいうべきコハクが戻って来て、歓声が沸いた。


だがコハクは…

村長たちに目もくれずに、2階へと上がって行った。
< 139 / 392 >

この作品をシェア

pagetop