魔王と王女の物語
コハクは誰の言うことも聞くことはない。


――女王も今までずっとそう思っていたのに、今コハクは“チビ”と呼んでいる美少女の願いをあっさりと聞き入れた。


「…驚いたわね」


「勝手に驚いてろ。早くグラースの呪いを解け。次はチビだからな」


後半の言葉は優しくラスに呼びかけて、いつもは快活な光に溢れているグリーンの瞳には何の感情の色もなく、ただ頷いたラスを抱き上げたまま離さず、


コハクがグラースに顎で女王を指すと、女王が鼻を鳴らして手招きをした。


「もうこの森には2度と入って来ないで」


「わかった」


女王がグラースの額に掌を翳した。

瞳を閉じるとそこから真っ白な光が溢れてグラースを包み込み…


光が収まった時…グラースの顔には驚いた表情が浮かんでいた。


「グラース、良かったね。ねえ、笑ってみせて?」


「…ラス…すまない、私がお前より先に…」


すぐに駆け寄ってきたグラースに手を伸ばすと握ってくれて、コハクがぎゅうぎゅう強く抱きしめているのでちょっと苦しい思いをしながら握る手に力を込めた。


グラースが無理矢理に笑みを作った。

今できることは笑ってやることしかなくて、感情が戻ったことでさらに美しさが際立った様子はラスを喜ばせた。


「コー、やっぱりグラースはとても綺麗。呪いが解けて良かった」


「それよかチビ、次はお前だ。女王が無茶ぶりしても俺が絶対お前を元に戻してやる。…早く笑ってみせてくれ」


――グラース程の美女が目の前に在りながら、いつもの魔王だったら舌なめずりをしているところが全く興味を示さず、

ずっとずっとラスの心配をしている魔王が心底ラスを愛していることがわかり、


グラースはそれを良いことだと思ったが、


女王は違った。


「コハク…あなた骨抜きにされてしまったのね。強くて美しくて、ベッドの中でも最高なあなたはどこに?」


「どこにも行ってねえしチビの前でベッドとか言うんじゃねえよ。お前にゃチビの愛らしさがわかんねえだろうな。ほら、さっさと呪いを解けよ」


愛情が愛憎に転換する。


コハクを夢中にさせているラスに、女王は敵意を募らせた。
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