魔王と王女の物語
炎の虫かごに閉じこめた盗賊たちはコハクの姿を見た途端ぴたりと野次を止め、


その横を真顔のコハクが素通りして、まだ火消しを手伝ってくれているウンディーネを呼び寄せた。


「もう終わりそうか?」


『ええ。次は何?久々に召喚してくれたんだから言うことを聞いてあげるわよ』


水が人の形を取ってゆらゆらと揺れてコハクの肩に乗ると、燃える大木を見上げながら四精霊の力関係を問うた。


「他の精霊とは関係は良好か?」


『そうね、サラマンダー以外とは仲良しよ。あいつは暴れることしか知らないから』


「そっか。じゃあ手を貸してくれ。…3日で全て森を元通りにしたい」


――コハクに手を貸しているのは、それぞれの精霊がコハクに課した困難を極める試練に打ち勝ったから。


『3日、ね。今日から不眠不休だわ』


「前たちをいっぺんに召喚する俺の身にもなれよ。…とにかく俺の天使ちゃんにかけられた呪いを早く解いてやりたいんだ。協力してくれるな?」


『いいわよ。ノームとシルフィードには私からも協力をお願いしてあげるわ』


話がまとまり、一瞬で精神集中を高めたコハクが老人の姿をした地の精霊のノームと、そして女王よりも高位の森の妖精の美女のシルフィードを召喚した。


「協力してもらうぞ」


――ラスはサラマンダー以外の四精霊をいっぺんに召喚したコハクの後ろ姿を城の2階のバルコニーから見ていた。


「…あいつの力は底無しか…」


隣に立つリロイがごくりと喉を鳴らし、すごい、と思いながらそれを表情に出すことのできないラスは、頼もしいコハクの背中をじっと見つめ続ける。


それに気付いたのかコハクが振り返り、熱風に金の髪を揺らしているラスをじっと見つめて…何か呟いた。



『愛してる』



唇の動きで確かにそう言ったのがわかった。


「嬉しいのに…私…どうやって喜んでたっけ…」


「…ラス…」


「泣きたいのに…私…どうやって泣いてたんだっけ…」


「…中に戻ろう」


はじめてコハクに“愛してる”と言われた。


嬉しいのに喜べない。

泣きたいのに泣けない。


――コハクに会いたい。
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