魔王と王女の物語
 『女王の地位を剥奪するわ』


――やわらかい風のベールに包まれた人型のシルフィードが猫のような足取りでコハクの隣に立ち、抱っこされているラスの頬を撫でた。


『近くで見るともっとカワイ子ちゃんね』


「笑うともっと可愛いんだぜ」


…色ぼけ炸裂の魔王に対してシルフィードが忍び笑いを漏らし、そして女王は…固まっていた。


「なんですって…!?」


『お前が1番美しくて力が強かったら女王の座につけたけど、私利私欲のために呪いをかけるなんて滑稽もいいところよ』


――シルフィードは通称“森の妖精”と呼ばれ、すべての万物に宿る孤高の存在だ。

そのシルフィードが現女王に妖精の管理を任せていたのだが、最近の女王の言動には怒りを覚えていた。


「いや…いやよ!」


『では呪いを解きなさい。そしてもうコハクに関わらないこと。私が呼び出してもらえなくなるじゃない』


――表情の動かないラスの頬にひっきりなしにキスをしているコハクと視線を合わせようとじっと見つめたが、

コハクはラスを見つめっぱなしで、視線を合わせようとしない。

今の地位を奪う、と言われた女王は唇を噛み締めたが、シルフィードが歩み寄って来たので即座に叫んだ。


「わかったわ!」


『さあ、女王の前へ』


「ああ、恩に着る」


「シルフィードさん…」


ラスが手を伸ばすとちょっとだけ指を握ってくれて、

女王は憤りを鎮めるために深呼吸をすると、無表情で見下ろしてくるコハクとようやく目が合い…目を逸らした。


「早くしろよ」


腕に抱かれているラスの額に指を伸ばした。

軽く触れると額を中心にラスの身体が一瞬金色に輝いて、そして…


「…コー…」


「チビ、呪いは解けたか?笑ってみせてくれよ」


「こう?今私、笑ってる?」


いつものように微笑んでくれたラスに心底ほっとしたコハクはラスの顔全体に何度もキスをすると…うざがられた。


「コー、くすぐったいからやめて」


「よしよし、いつものチビだな。じゃあな、もう二度とこの森には来ねえからな」


――笑顔のラスを森に連れ出す。

サプライズが待っていた。
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