魔王と王女の物語
森に連れ出されたラスは、コハクの首に腕を回して抱き着きながら少ししょげた声を出した。


「ねえコー、女王様と何かするんじゃなかったの?“抱く”ってどういう意味?」


「へ?や、チビが気にすることじゃねえし。…知りたいか?知っても俺を嫌いにならないなら…」


「ってことは、やなお話なんだよね?…じゃあいい。コーのこと嫌いになりたくないもん」


――話してないことがたくさんある。


いつもいつも言おうとしては躊躇して…

ラスに嫌われたくない。

ラスに離れて行ってほしくない。


この恐怖は、誰にもわからないだろう――


「この辺でいっか」


人気のない森の奥深くに入り、朝露を浴びて瑞々しく神々しい木々がざわめく音と姿に、下ろされたラスが見入っていた。


コハクは、そのラスの横顔に見入っていた。


「綺麗!コー、リロイたちもここに呼ぼうよっ」


「駄目。チビ、ちょっと待ってろ」


――コハクが森を見上げる。

…その時その場に座って色とりどりの花を摘んでは香りを楽しんでいるラスの耳に…馬の嘶きが聴こえた。


「あ…こ、コー、馬に角が…」


「あれはユニコーンだな。チビ、じっとしてろ」


――白い馬体に、額に長い角。

性格は極めて獰猛で攻撃的で、コハクの横を通り過ぎる時、鼻を鳴らして威嚇してきたが、ラスの存在に気が付くと一目散に駆けて行ってコハクをひやりとさせたが…


何の恐怖感もなく全開の笑顔でユニコーンを待っていたラスの前で両脚を折って座り込むと、膝に頭や頬を擦りつけていた。


…処女の前でのみ大人しくなると言われる伝説の生き物の角を撫でてやりながらコハクを呼び寄せた。


「コー!コーも触って!」


「俺はチビを触りたいなー」


ラスの隣に腰かけるとすっかり大人しくなったユニコーンは威嚇もしてこなくなり、

長い指を伸ばしてそっとラスの頬に触れると、快活なグリーンの大きな瞳の中に自分が映り込んでいるのが見えた。


「…心配させんなよな」


「ごめんなさい…。コー、ありがと。大好き」


「俺も」


小さく唇を重ねると、“もっと”と言うように深く応えてきた。
< 213 / 392 >

この作品をシェア

pagetop