魔王と王女の物語
今度ははっきりと耳元でそう囁かれ、途端に愛しさが生まれて、ラスは身を寄せてコハクの背中に腕を回した。


「…どうした、積極的じゃん。襲われたいのか?」


「私を食べるの?…コーに食べられるのならいいよ」


「マジで?やべえ、爆発する!」


いつものコハクに戻り、先程までの真剣な表情が消えてラスはほっとして、コハクのシャツを脱がしにかかった。


「ちょ、え?ち、チビ!?」


「コーは寝る時服を脱ぐでしょ?脱がせてあげる」


驚きすぎて言葉の出ないコハクの真っ黒なシャツを脱がせるとまた抱き着いて、細いがたくましい胸に頬ずりした。


「やべえって!マジで爆発するから!」


「コー、寝ようよ。私もう…すっごく眠くって…」


安心したラスが瞳を閉じ、しっかりと抱き着かれたまま身動きできなくなった魔王の顔は、真っ赤になっていた。


「…眠気吹っ飛んだんだけど…」


だがラスはもうすやすやと寝息を立てていた。

さっきまでものすごく良い雰囲気だったことを思い出して、魔王は不気味に笑い出した。


「ふふふふふ」


「んん、コー…、うるさい…」


寝ぼけ半分でラスの小さな手で口を塞がれて、その手を外しながら指をぺろぺろと舐めて味見しながらぎゅっとラスを抱きしめた。



「ラス…俺の花嫁になれよ」



――ラスが起きている時に、いつもの“チビ”ではなく、“ラス”と呼んだことはない。


今も現にラスの耳には届いていないらしく、長い金色の睫毛が綺麗で、頬に残る涙の痕を舌で舐めとりながら瞳を閉じた。


「俺のこと、好きになれよ。ラス…ラス…」


――コハクが眠りに落ちて行くとラスが動いて薄目を開けてコハクが眠ったのを確認すると…両手で顔を覆って、悶えた。


…コハクが“ラス”と呼んでくれた。


今まで1度もそう呼ばれたことはなくて、少し半開きのコハクの薄く綺麗な唇にちゅっとキスをした。


「…コハク……コハク…」


多分、これが恋。

ふわふわしてあたたかくて、優しい。


いつもとても大切にしてくれるコハク――


ラスもまた、はじめて“コハク”と名を呼んだ。


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