魔王と王女の物語
兄のように慕っていたリロイとはずっと一緒に居れない――


今まで本当にリロイには良くしてもらって、時にはコハクに内緒で秘密を作ったこともあったけれど、あれは今思えばしてはいけなかったことだと思う。


“愛してる”は、“好き”よりももっと上の感情。


ラスはまだ“愛”がわからず、だがコハクのことを“好き”だとは思う。

リロイに抱いている“好き”とは明らかに違う。


――ラスに背中を押されて、ティアラはリロイを想い続けようと決めて、途中休憩をするために馬車から降りて快晴の空を見上げていた。


…ラスはコハクが自由に動けるように、いつだって影の沢山ある場所に座る。

それは無意識の行動なのだろうが、休憩の度にぷらぷらと森の奥に消えて行ってしまうコハクが消えて行った方を、ビスケットをかじりながらじっと見ていた。


そんなラスをリロイがじっと見ている。
グラースも周囲の見回りに行ってしまい、2人きりになったティアラは水筒をリロイに手渡した。


「ありがとうございます。…影はどこに?」


「また森の中へ。…リロイ…あなたは今も魔王を倒そうとしているんですよね?」


驚いたような表情で見下ろされて、ティアラは言葉に詰まりながら顔を伏せた。


「魔王はラスに選ばせると言っていました。だから…選択の前に魔王を倒そうとするのは間違っていると思うんです。私たちは間違っているのでは…」


「間違っていません。今は違いますが、あいつが再び危険思想を抱けば、再び世界は危機に陥ります。…例えラスが関わっていなかったとしても、僕はあいつを倒しに魔王の城へと向かったでしょう」


――頑なに魔王を倒そうとするリロイの決意は固い。


だがコハクは…ラスが傍に在る限りはもう、危険な存在ではないのではないだろうか?


逆にコハクからラスを奪ってしまえば、取り返しのつかないことになってしまうかもしれない。


だから、ラスに選ばせなければ。


「…わかりました」


「あなたにも苦労をかけます」


そう言ってラスに視線を戻したが…


さっきまでそこに座っていたはずのラスの姿が消えて、リロイが慌ててラスを呼んだ。


「ラス?ラス!?」
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