魔王と王女の物語
「全く何度言わせれば気が済むんだよ。次また勝手に離れたらマジで嫌いになってやる」


「ごめんなさいって何度も言ってるでしょ?ウサギさんが可愛かったんだもん、普通魔物って思わないよ?」


「めっちゃ喋ってたじゃん。動物は喋んねえの。わかったか?」


「…うん、わかった」


――痴話喧嘩をしながらラスとコハクが戻り、無事だったことにリロイはほっと胸を撫で下ろすと頬を膨らませているラスに笑いかけた。


「無事でよかったよ。ラス、勝手に遠くへ行っちゃ駄目だからね」


「それはもうコーに何度も言われたもん。コー、怒んないで?もうしないから」


「まあそこもチビのいいとこなんだけどー。さ、乗れよ」


抱き着いて離れないラスを下ろして馬車に乗り込ませ、珍しく外に居るままの魔王にグラースが首を傾げた。


「中に入らないのか?」


「罰だよ罰。勝手に行動したからちょっとお仕置きしないとな」


ぱちんと指を鳴らすと地面に真っ黒の魔法陣が浮かび、そこから真っ黒な馬が現れてリロイとグラースが鞘に手をかけた。


「ただの馬じゃん、警戒すんなよ。ちぃっと飛んだりするけどな」


…馬には翼があり、甘えた声を上げながらコハクの肩に鼻をこすりつけていて、ラスが窓を開けて非難の声を上げた。


「コー、中に居てくれないのっ?」


「ああ。着くまで1人で乗って反省してろ。ボイン、チビを甘やかすんじゃねえぞ」


「…普段甘やかしてるのはお前でしょ」


「ああ?今なんっつった?」

ひらりと真っ黒な馬に騎乗して走りだし、マントが風に揺れた。
色は真っ黒だが…ラスにはこの時の魔王が“勇者様”に見えた。


「反省してるもん…。コーの馬鹿…」


「何か興味があることがあったら私もついて行くから。ね、お願い」


「うん、わかった。ごめんねティアラ」


きゅっと抱き着いてきた純粋無垢な王女に癒されているのは何もリロイとコハクだけではない。

グラースとティアラも同じで、できれば魔王を影から追い出して、その後は王国に戻って幸せに暮らしてほしい、と思う。


…だが、魔王は諦めないだろう。

ラスをがんじがらめにして、堕としてゆく――
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