魔王と王女の物語
ラスをドレッサーの前に座らせると化粧道具を手にした。


「魔法でしてやろうか?俺は自分の手でやりたいんだけど」


「お化粧くらい自分でできるもん」


「嘘つけ、この前頬紅で顔全体を真っ赤に塗ってたじゃねえか」


とんとお洒落に関心がなく、せっかくの逸材なのにもったいない…と嘆きながらも、


コハクが施したのはピンク色の口紅を薄く塗り、パールのアイシャドーを瞼に塗っただけだった。


「おしろいはしなくていいの?」


「しなくていいの。言っただろ、お前の肌はスノウより白いんだってば」


「早く会いたいな、コー、早く行こうよ」


気が急いてコハクの腕を引っ張り回していた時…


ノックする音がして、ドアの外から“失礼いたします”という声が聴こえた。


「あ、リロイだ」


部屋に訪ねてくるのは久々で、勢いよく扉を開けると驚いた顔をしたリロイが、ラスのドレス姿を見て手で口元を隠す。


「ねえリロイ、これどう?似合ってる?」


「あ…、は、はい、ラス王女…」


「そんな呼び方しないで!どう?」


「え、いや、あの……か、可愛いよ」


誉めてもらえて飛び跳ねながらリロイを部屋の中に引っ張り込み、ベッドに座った。


金色の髪には白い花のコサージュをつけて、いつも以上に可愛らしくなったラスに思わず見とれると、


窓辺からコハクがこれ見よがしな咳払いが聴こえた。


「パーティーの準備が整ったから迎えに来たよ。沢山知らない人が居るけど、僕が守ってあげるからね」


「うん、ありがとうリロイ。大好き!」


きゅっとラスが手を握ってきて、顔を赤らめたリロイに対して、

コハクは限りなく機嫌を斜めにしながら毒を吐いた。


「“大好き!”の大安売りだな。おい小僧、真に受けるなよ」


「うるさい!ラス、行こう」


「うん」


恭しく手を取って歩き出したリロイに手を引かれ、

その間にコハクは影と影の間を伝って一足先にパーティー会場へと侵入した。


…数百人は居るだろうか。


「みんな飢えた獣の目をしてやがる。チビは俺の花嫁だぞ」


バルコニーで一人呟く。

< 25 / 392 >

この作品をシェア

pagetop