魔王と王女の物語
噴水のある街へ着く直前。

突然馬車が止まり、ラスが御者台から前方を覗くとリロイが馬から落下して、意識を失っていた。


「リロイ!どうしたの!?」


「…あいつ…ちっ、めんどくせえな」


舌打ちしながらコハクが馬車から出て、リロイの肩を揺すっているティアラの腕を引っ張って立たせた。


「リロイが…!」


「どけ」


「コー、リロイは大丈夫なのっ?お願い、助けてあげて」


長い金の髪が頬にかかり、それを払ってやりながらラスが心配げに言うと、早速魔王、超嫉妬。


「俺も倒れたりしよっかなー」


「倒れたら看病してあげるから。コー、早くっ」


急かすラスから一晩中看病される妄想だけでお腹いっぱいの魔王は、リロイの腰に下げられている魔法剣に手を伸ばした。


「何をする気!?」


「俺だって触りたかねえよ。そいつの魔力で精神がやられそうになってるんだ」


――自分の身体が水晶で形成されていることは、ローズマリーとラスしか知らない。


水晶は使い手の感情によって力を増幅させる。

コハクにとっての水晶は決して危険なものではなかったが、

リロイが自分を憎む想いが本来透明で美しい水晶の力を黒きものに変え、コハクにとって危険なものへと成り果てていた。


「危ねえな…。水晶の力もそうだけど、ゴールドストーンとレッドストーン、ブルーストーンの力で満ち溢れてる。こんなので刺されたら…」


――もう死にたいとは思っていない。

ラスと一緒に永遠に生きると決めたのだから、できればこのままこの剣を葬ってしまいたい。


「変なことをしたら私がお前を殺すわよ」


「ティアラ…」


ラスが悲しそうな声を上げてマントを握ってきたので、鞘を放り投げると抜身の魔法剣を久々にじっくりと眺めた。


「コー…」


「んな声出すなって」


「魔王、それは…」


「お前はこっち派だろ?このままだと小僧は気が狂うぞ」


水晶の強力な力で精神をやられないようにグラースがラスを連れてコハクから遠ざけた。


ティアラは気を失っているリロイの上体を起こしてやり、コハクを見つめた。


…懊悩していた。
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