魔王と王女の物語
もう2度と魔法剣には触れたくなかったが…リロイを救わないと、ラスが悲しむ。


…いずれこの手にかけてしまうかもしれないのに、今は救うしかない。


もし人に手をかけるのならば…この男で最後にしたい。


「ボイン、お前も少し離れてろ。お前までぶっ倒れたら……まあ倒れてもいいけどイタズラすっからな」


緊張に頬を震わせ、青白い顔で見つめてくるティアラに1度だけ、笑いかけた。


「…大丈夫なのね?」


「まあな。元の正しい力に戻してやれば…水晶の力は脅威じゃねえよ」


――コハクが両手で包み込むように魔法剣に手を翳すと、ふわりと剣が浮いた。


視線を感じて振り返ると、遠く離れた馬車の前でグラースに肩を抱かれたラスがじっと見守ってくれている。

目が合うと小さく手を振ってきたが、精神を集中する作業であることに代わりはないので深呼吸をして剣がため込んだ水晶に呼びかけた。


「元の正しい力へ。正しく使われるために」


――ティアラはリロイの身体を抱きしめながらコハクが囁いた言葉に瞳を見張った。


この男は攻撃に特化した魔法使いだけれど、癒しの力も使えるし、ありとあらゆる魔法を知っている。


現に魔法剣からは青白い炎のようなものが揺らめき、空に吸い込まれるようにして消えてゆく。


魔王の顔は真剣そのもので、

グリーンリバーの街に住む魔物たちもこんな見たことのないような真面目な顔で改造していたのかと思うと…少しだけ、魔王を見直した。


「よし、これで大丈夫だろ。あー疲れた。疲れた!チビを抱っこしたい!チビ―!」


「コー!終わった?もう大丈夫?」


「大丈夫大丈夫。だから触らせろ!」


リロイを荷物のように肩に背負うと馬車に放り込み、駆け寄ってきたラスを抱っこした。


「リロイは平気?」


「多分な。つか小僧の心配ばっかすんな!俺も疲れてんのにさ」


ぷいっと顔を逸らしていじけてしまったコハクの瞼にちゅっとキスをして頭を撫でると…


魔王、にやけ笑い。


「コー、偉い偉い。よくできました」


「へへ、そうだろ?俺ってすげえだろ?」


ラスには誉められたい。


★★

< 343 / 392 >

この作品をシェア

pagetop