魔王と王女の物語
夜になってようやく村へ到着すると宿を取ってリロイを2階へと運び入れた。

奇しくもその部屋はリロイとティアラが身体を重ね合った部屋だったのだが、

一向に目を覚まさないリロイを案じたティアラは、ラスの鼻先でドアを閉めた。


「ひとりで看病したいんだって。…私もリロイのこと心配なのにな…」


「はいはいそこのお姫様ー、もう1人すっげえ疲れてる男が居るんですけどー」


主張の激しい赤目の男が手を挙げてアピールすると、グラースは肩を竦めてラスに手を振った。


「村を見回って来る。ラス、赤目の狼に気を付けろ」


「うん、わかった」


素直に返事をしたラスはコハクの細い腰に抱き着くと唇を尖らせて見上げた。


「リロイが心配なの」


「はああ?俺が助けてやったっつってんだろが。今度またあいつの名前出したら小僧を殺すぞ」


半ば本気で言いながら向かい側の部屋へと入り、粗末ではあるが清潔なベッドに身体を投げ出した。


ラスは入り口に立ったまま何かを言いたげな表情をしていて、さらに魔王の機嫌が悪化。


「なんだよ」


「コーは…お城に着いたらリロイを殺しちゃうの?」


――コハクは寝返りを打ちながら枕を抱きしめて不機嫌炸裂の声を出した。


「今小僧の名前呼んだな。じゃあ殺す。ぜってぇ殺す」


「リロイはずっと私の傍に居てくれたの。それにティアラの“勇者様”なんだよ?お願い、コー」


ベッドに上がって来ると髪を耳にかけられて耳元で囁かれたコハクはぞくぞくが止まらなくなりながらもなおうそぶいた。


「あいつは俺を殺す気満々だろ。チビはどうしたいんだよ。俺が小僧に殺されるか、俺が小僧を殺すか。二択だぜ、好きな方を選べよ」


…ものすごく理不尽な選択を迫っていることくらい、わかっている。

現にラスは何も言えなくなり、耳元で鼻を啜る音が聞こえた。


「…チビ…」


「やだ…どっちもやだよ…。コーは私の隣にずっと居てくれなきゃやだ…。リロイともう会えなくなるのはやだ…」


「…わかってるって。なんとかするから。だから泣き止めよ」


我が儘な王女。

そこもまた愛しているけれど――


★★

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