魔王と王女の物語
夢を見ていた。


コハクがはじめて話しかけてきた時のこと。


『チビ』


あれは5才位の時だったと思う。

低くて気持ちよい声が自分の影から聴こえてきたので、とても驚いたけれど全然怖くなかったことを覚えている。


父たちからは何度も何度も“コー”と呼ぶことを咎められて叱られたけれど、影の中に居る謎の男は話しかければいつも応えてくれた。

主に『ちゃんと髪を梳かせ』や『好き嫌いはするな』などの小言だったが鬱陶しくはなく、


はじめて姿を見せてくれた時…

リロイと森の中で遊んでいた時にはじめて見たコハクにきゅんとしたこと――


今思えばあれが初恋だったのだろうか?


「コー…」


――目を開けると…

いつからそうしていたのか、顎に手を添えながらベッドの回りをぐるぐる歩き回っているコハクの姿が在った。


「コー、私がバターになっちゃう」


「!チビ!起きたか、どこも痛くないか!?」


早速駆け寄って来ると膝をついて手を握ってくれたコハクの顔はものすごく心配そうで、きゅんとした。


「大丈夫だよ。コーが治してくれたの?ありがとう。コー、手は痛くない?指が取れちゃうかと思った…」


「ボインが治してくれたからへーき。それよかお前…今から説教だからな」


…無我夢中でリロイとコハクの間に立ちはだかったことを説教されるのだろうが…

もしああしなかったとすれば、こうやってコハクとは会えただろうか?


ラスは絡められた指を折り曲げてきゅっと握るともう片方の手を伸ばしてコハクの頬に触れるとつい涙ぐんだ。



「だって…コーが死んじゃうかと思ったんだもん。せっかくコーのこと好きって気付いたのに死んじゃうなんて…もう絶対しないで。絶対…」


「…チビ…ごめん。俺はさ、チビのこと独り占めしたいからそうすれば独り占めできるかなって思ったんだ」



――何百年生きようとも見つからないと思っていた珠玉の宝――


縋り付いてきて声を押し殺すラスはいたいけで、


コハクの赤い瞳にはうっすらと涙が溜まった。


「コー、泣いてるの?」


「な、泣いてねえし!」


ばればれ。

< 364 / 392 >

この作品をシェア

pagetop