魔王と王女の物語
リロイたちは部屋を出ると階下に用意された部屋へと向かった。


「ラスが元気で良かったですね」


ティアラが気を利かせてくれて話しかけてくれたので、リロイは小さく頷くと息をついた。


「そうですね…。でも僕がラスを刺してしまったのは消せない事実ですから…僕は一生僕を許さないでしょう」


「で?お前はラスと魔王のことを許したのか?」


いつも最後方を歩いているグラースが声をかけてくると、脚を止めたリロイは先ほど全開で笑ってくれたラスの笑顔を思い出してはにかんだ。


「元々僕には勝ち目がありませんでした。ラスが本当に幸せそうだったから…時間をかけて、諦めるようにします」


――ティアラは複雑な心情になり、先頭を歩いていたリロイを通り越して足早に階段を駆け下りた。


…自分が醜い。

“諦める”とリロイが言った時、明らかに喜んでしまったのだ。


自分にだって勝ち目がないくせに…

今までずっとリロイがそう言いだすのを待っていた自分が醜くて、リロイとグラースに顔を見せることができなかった。


「ティアラ?どうしたんですか?」


「…なんでもありません。少し疲れたので…休ませていただきます」


顔を伏せてドアノブに手をかけた時――リロイがその右腕を握ってきた。


「…!」


「あなたの聖歌、魂に響きました。結果がどうであれ、神聖な気持ちで戦うことができたのはあなたのおかげです」


真っ直ぐに見つめてくる金の瞳。


ラスを見つめるような瞳で、見てもらいたい――


だがそんな日は来ないかもしれない…


それでもこの人が自分の“勇者様”だったらどんなにいいことか。



「ティアラ…?」


「…おやすみなさい」


――握っていた右腕をやんわりと外すと部屋へ消えて行ったティアラの様子はおかしく、リロイが戸惑っているとグラースが肩を叩いてきた。


「グラース?」


「お前とは深い話をしたことがなかったな。眠れないのなら私が付き合ってやる。酒は飲める方か?」


「いえ、あんまり…」


でも付き合ってもらおう。


ラスを刺したこの手の感触を忘れるために――

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