魔王と王女の物語
グラースを部屋に通すとリロイは鎧を脱いだ。

…コハクに傷つけられた箇所は全てティアラが治してくれた。

その前には今にも指が落ちそうになっていた魔王の手の傷を治していたので、とても疲れているだろう。


「ティアラは…大丈夫でしょうか」


「そう思うなら後で顔を見せに行ってやれ」


棚に並んでいる酒瓶を何本か手にとったグラースは早速栓を開けると顎で椅子を指した。


「お前は明後日にはここを発つんだろう?ティアラと二人旅になる。ちゃんと気遣ってやれ」


――グラースは元王女だが、リロイの今の姿は…服は剣に切り裂かれてところどころ肌が見えている。

それも失礼だと思い、背を向けるとシャツを脱ぎながら小さな息をついた。


「僕は疎い所があるから…ティアラに逆に気を遣われるのではと心配しています。…グラース、あなたはどうするんですか?」


「私か。私の今後は決まっている。…国に戻るつもりもないし…それよりお前、いい身体してるな」


からかわれてつい顔を赤くしたリロイは慌てて新しいシャツを着ると、魔王の射殺すような赤い瞳を思い出してぞくっと背筋を震わせた。


「ラスは…もう僕だけの小さなお姫様じゃなくなったんですね」


「女はすぐに成長する。この旅の間にラスはぐんぐん成長した。お前とティアラと、魔王のおかげだ」


…すさまじく色ぼけだが、ラスを想う気持ちだけは認めていた。

今はラス一筋だが、それまでは幾度となく女と絡むコハクを見ていたので、どうしてそんなことをするのか理解できなかった。


「僕には未だに理解できないことばかりです」


「少しずつ理解していけばいい。それより…お前はティアラを抱いたのか?」


核心を突かれてちびちびと飲んでいたワインが器官に入って咳き込むと、いつも表情の動かないグラースがふわりと笑ったのでつい見惚れてしまった。


「ふふ、やっぱり。ティアラにとっては願ったり叶ったりだろうが、お前にとっては悩みの種が増えてしまったな。この際引き取ったらどうだ?」


言われている意味がよくわからなくて首を傾げると、さらにグラースは肩を揺らしながら同じ金の前髪をかき上げた。


「わからないならいい」

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