魔王と王女の物語
真っ黒な棺――

あれからずっとそこに居たのか、ベルルは愛情溢れる眼差しでコハクを見上げると、その場を譲った。


「よく今まで守ってくれた。サンキュ」


ベルルの元々尖った目元がふわっと緩み、ラスが見惚れているとぎらりとこちらを睨んできた。


「あんたしか開けられないんだからさっさとやりなさいよ」


「う、うん、わかった」


「こらーベルル!チビに乱暴な言葉使うんじゃねえ!」


べたべた甘々魔王から怒られて唇を尖らせたベルルがラスを顎で指すと、ようやく棺の前に立てた。


「この中にコーの身体が…」


「さ、チビ…」


気が逸っているのか肩を抱いてきてわくわく顔のコハクを一度見上げるとその場にひざまずき…ゆっくりと手をかけた。


冷たく固い棺に触れた途端かちりと音がして、精一杯力を込めて持ち上げようとしたがなかなか開かない。


ベルルもコハクも手助けができずにはらはらしていた。

この棺は、ラスにしか開けられないのだから。


「おも、たい…!」


「チビ、頑張れ!」


コハクに励まされて顔を真っ赤にさせながら持ち上げると…徐々に中が見えてきた。



――胸の前で両手を組み合わせ、静かに眠っている男は…コハクだ。

真っ白な肌に濡れたような黒髪は、自分の影のコハクよりも少し髪が長い。


細い身体は相変わらずで、閉じた瞳は開けばきっと真っ赤で…

この指に嵌まっているガーネットの指輪と同じ位綺麗で、美しいだろう。


「こ、コー…」


隣に居るはずのコハクを見上げると、そこには誰も立っていなかった。

気が動転したラスが足元の影を見たり辺りをきょろきょろと見回していると…



「…チビ」


「!…コー……?」



あたたかな手が棺にかかっていたラスの手を握った。


驚いて棺に目を戻すと、コハクの瞳がゆっくりと開き…ゆっくりと起き上がった。


その瞳はやはり赤くいつもより鮮やかで、


そして影の中のコハクよりもさらに美しく色気のある男で、ラスを棺の中に引きずり込んだ。


「チビのおかげで戻れた。ありがとう、チビ」


愛をこめて――


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