魔王と王女の物語
リロイはラスの変化にいち早く気が付いた。

何をどう説明すればいいのかわからないけれど…ラスは何かが変わっていた。


「リロイ、ここに来て!私の隣!」


「駄目ー!小僧は向かい側!それが背一杯の妥協だからな」


やきもち炸裂の魔王がラスが座ったまま椅子をぴったりと引き寄せると、リロイは何も言わずにラスの正面に座り、微笑んだ。


「そこの隣のが本体に戻ったみたいだね。で、今までどこに行ってたの?」


「うんあのね、グリーンリバーに行ってコーと一緒に太陽の下をお散歩したの。それでね……ううん、なんでもないよ」


つい口を滑らせそうになってしまって黙ると、グラースが込み上げてくる笑みを堪えながらワイングラスを片手に持ち、掲げた。


「乾杯しよう。魔王が本体に戻り、ラスの傷も癒えたしこんなに嬉しいことはない。魔王、音頭を」


「ああ。ボインと小僧とは明日でお別れだ。ま、時々遊びに行ってやるから楽しみにしてろよ。じゃ、乾杯」


皆でワイングラスを掲げて一気に胃に流し込んだ。

芳醇な赤ワインが喉を滑らかに通り、甘い味と香りにラスが顔を輝かせると早速コハクがまたグラスにワインを注ぎ込む。


「チビ、部屋に戻ったらまた…しような」


「え…う、うん、わかった」


耳元で囁かれて顔が赤くなったが、面々はそれをワインのせいだと思い、豪華な料理の数々に舌鼓を打っていてそれには気付いていない。


ただ正面に座っていたリロイは魔王が何かを囁きかけたのを見てはいたが…

もうラスのことは忘れなければならないので、視線を落として料理を口にしていると――


「ねえリロイ、こっち見て。次に会えるのは多分私とコーの結婚式だから…それもいつになるかわからないし、リロイの顔をよく見ておきたいの」


「…うん、そうだね。じゃあ僕もそうしようかな」


リロイが顔を上げ、ラスと見つめ合う。

魔王はきりきりしながらその光景を見なければならなかったのだが、いつもより少しの余裕を持つことができていた。


――金の髪に金の瞳に…優しい笑み。


兄のように慕っていた男との別れは思っていたよりつらく、嗚咽を堪えながらコハクの腕に縋り付いた。
< 388 / 392 >

この作品をシェア

pagetop