BLack†NOBLE
父親の転勤でヨーロッパ諸国を移り住んでいた俺たち家族。
その生活は、大切なモノをごく一部に抑える生活だった。
家や友達には、必ず別れの時がくる。
住みやすい必要はなかった。
心を許す友達も必要なかった。
華やかなようで、寂しい思いも沢山した。
それなのに、蔵人は家族の中で一番土地に馴染むのが上手かった。
時には「三ヶ月滞在するのに調度良さそうな家だな? この柱が邪魔で、三カ月以上滞在すれば必ず瑠威が頭をぶつける」と冗談(だと思うが)を言って家族を明るい気持ちにさせるムードメーカーでもあった。
だから、俺も弱音も泣き言も言ったことはなかった。蔵人がいれば、どんな場所にいても、どんな人間と付き合おうと、やっていける自信があった。
長い転勤生活が数年続き、一番慣れ親しんだフィレンツェに戻ってきた時は嬉しかった。そして、父親の転勤がないことを知らされた俺たちは、自分たちの将来を考えはじめた。
「……ここに、永住する事にした。瑠威は、瑠威の人生を歩めばいい」
両親はいつだって俺たち兄弟を心配し見守ってくれていたが、その父親の言葉は俺だけに向けられたのだ。