BLack†NOBLE
『勝手なことをするな! 着替えがしたきゃ路上に座るホームレスの前でさせてやる。来い!』
アリシアは小柄な体が俺の腕からすり抜けた。
『私、女優よ! それに、そんなことクロードが許さないもん! それに……瑠威、ヒドい顔してる。少し休んで……』
エメラルドの瞳が、心配そうに下から見つめてくる。
『十分で仕度を済ませろ』
『えーっ! 無理。それに今日一番最初にシチリア行きのフェリーが出るの二時間後よ?』
くそっ…… 二時間も?
シチリアとは、縦に長細いブーツのような形をしたイタリアの南南西に浮かぶ島だ。
ナポリからならば、二時間待たされたとしても、フェリーを使ったほうが確実に早く到着できる。
エミリーの部屋にある文字盤がローマ数字の時計を睨み付ける。睨み付けたところで、時が早く進むわけでも遅くなるわけでもない。
エミリーは俺に苦笑いをすると、時計の下にあるパソコンの電源を入れた。
『あはは……瑠威、フェリーの予約をするわ。部屋は好きに使ってね』
俺のアリシアに対する扱いをみて怯えている。
『すまない……頼む』
そのまま近くにある椅子に、崩れ落ちるように座った。一睡もせずにここまで来たのは一刻も早く彼女に会いたいからだ。
ローザは、本当に俺が期待するような答えをくれるのだろうか────