BLack†NOBLE
『そうだけど……』
『自分を大切にしないから、蔵人にあんな扱いされるんだ』
静かになったアリシアは、俺が仮眠をとっていた間にシャワーと着替えを済ませたようだ。
ブロンドの髪を一纏めにして、ショートパンツに短めのトレンチコートを着ている。
ドレス姿から普段着に着替えた彼女は、幾分若く見える。
小柄な体から伸びる長く細い足を、触ってみたいと思う男は何万人といるかもしれない。
『瑠威、ブリオッシュどう? エスプレッソも入ったとこよ』
エミリーは控え目に、俺に朝食の提供をしてくれる。
『助かる……ありがとう』
エミリーからエスプレッソのカップを受け取ると、それを一口飲む。
苦味が冴えない頭に行き渡り、一気に目覚めていく。
『瑠威、エミだけに優しくするなんてズルーイ』
エミリーの顔が、一気に赤面化した。
『オマエが特別頭にくるだけだ……馬鹿女』
ローマ数字の文字盤の時計を見ると、まだフェリーの時間まで暫くあるようだ。
『何よ! せっかく着替え買ってきてあげたのにーっ、瑠威の石頭!』