BLack†NOBLE
部屋に入った時から、何か良い香りがすると思っていたのだが、誰からだろう?
「まあ、綺麗な花だわ。誰からかしら?」
「お嬢様のご両親からのようです」
花束に添えられた深紅のカードには、二人からの祝電が込められていた。
『おめでとう。二人とも、可愛い娘と自慢の息子だ』
そのメッセージに、胸が苦しくなる。
ただの使用人に、大切な一人娘を奪われた。それなのに、この優しさは尊敬ものだな。
大輪の花は、才色豊かに俺達の婚約を讃えてくれている。
何か明るいメロディが聴こえてきそうだ。
お嬢様は花束を大切そうに抱き締め、くるりと小さなターンをして喜ばれている。転んでしまわないかと、手を伸ばすと腕の中におさまる可愛い彼女。
「よかったわ。お父様とお母様が祝福してくださるなら、私達きっと大丈夫よね? 柏原」
なぜ、彼女がそんな質問をしてきたか意図は掴めない。
大丈夫だ……
そう伝えて彼女を抱き締めなくてはならない。それなのに、
「柏原、私眠くなってきちゃったわ……」
俺は、力なく頷き微笑む。
彼女との未来への障害は、これで全てがクリアされたのだろうか?
不吉な過去の事件が頭をかすめる。