BLack†NOBLE


 勝ったと油断すれば、負けるかもしれない。なのに、どうして蔵人という存在は、こんなにも圧倒的なのだろう。




『今日はゲストを呼んである。アンドレ、連れてこいよ』



 蔵人は道化師みたいに片手をあげた。


 グレコは、低く錆びれた声で『油断するな』と指示を出した。


 たが、コッグとグレコを身を呈して護ろうとするヤツは誰一人としていない。




『メルフィスは、全員銃を下ろせ。俺はここで撃ち合うつもりはない。大好きな話し合いをしようじゃないか』


 蔵人の一声で、ファミリーは銃を下ろした。カルロも納得したようにマキシムをしまう。


 俺が言っても聞かなかったくせに?


 部屋には、アンドレの指示に従いながら酷い拷問を受けたような男たちが数十人入ってきた。

 

『瑠威を襲撃した奴等と、ナポリで捕えた捕虜の一部だ。残りはヤク中野郎は病院の正面玄関に捨ててきてやった』


 コイツらか? 俺とアリシアを撃ってきた野郎は!


 思い出すだけで腹が立つ。

 最初は蔵人の差し金かと思っていたが、全員コッグとグレコの手下だったのか!


『捕虜は、カプリの海に沈められる掟だろう?』

 コッグは、ギリギリと歯軋りを止めない。



『その掟は、俺が廃止した。

 カプリの綺麗な青い海の上で、一人ずつ男を撃ち落としていくのは非常につまらない。海が汚れるのが嫌だ』


 蔵人は、ワインを片手に持つと「瑠威もグラスをとれ」と平然と言う。

 それから、紳士気取りな優雅な仕草でワインを俺にも注ぐ。



 ロッソ……血のような赤。片手にあまる大きなワイングラスの底で上品に揺れるワイン。甘く酸味を帯びた良い香りがした。



『腑抜けめ……マフィアの伝統的な掟に従わぬとは!』




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