BLack†NOBLE

 蔵人は、フンと鼻で笑い飛ばす。自分が間違っていない、お前が間違っている。と圧力をかけるような態度のままだ。


『お前たち、勇ましい雇い主の元に帰るか? それとも腑抜けの俺に雇われてみたいか?』


 ワインボトルを片手に、優美な笑み。

 蔵人は、緊迫の交渉劇にすら余裕の笑みを見せている。

 整列させられた男たちは、そんな蔵人をじっと見つめた。


 甘い香りで誘う毒を持つ獣のように、危険で魅力的な笑みだ。


『従います……』
 
 一人の男が、声をあげる。

 連鎖反応の様に次々『働かせてください』という声があがった。




『時代に合わせたやり方をしていかないと、マフィアだって生き残れない。

 お前たち、古いんだよ。ドラッグギャングなんて今じゃ全員ビジネスマンに扮してるぞ?』


 シャルドネの想いが込められたワインラベルをそっと指でなぞる。


『古くて良いのはワインだけ……

 お前たちは、もうメルフィスに関わるな、語るな、秘密を漏らすな、それからこの国で呼吸するのを禁じる。

 掟に従わぬ場合は、容赦しない』


 コッグも人を馬鹿にしたような喋り方をするが蔵人に比べれば、まだ優しい。

 蔵人は、人の心理を逆撫でする天才かもしれない。



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