BLack†NOBLE


『重い……退けアリシア……』


 掠れた声がした。意識を失っていたとは思えない程、低く冷酷な声が聞えた。


『……クロード?』


 クロードがゆっくりと瞳を開く。 致死量のフェロモンを振り撒くその鋭い瞳。

 抱き着きたいのに、それを許さない程 隙がない。



『クロード! うわぁああん! 良かった! 起きてくれた!』


 煩わしそうに眉をしかめたクロード。こんな態度は慣れてるから何てことはない。

 この不機嫌極まりないといった顔なんて見慣れてるもん。だけど、本当に良かった。




『クロード! 今日何の日か知ってるの? 何日寝てたかわかる?』


 広いベッドで、クロードに寄り添う。男にしては綺麗すぎる顔を眺めて、鋭く歪められた瞳を覗く。

 青白い顔に少し赤みがさしてきた。


『……わからないな』


『クロードなんか、大嫌い! 危ないことばかりして! 世界で一番大嫌いだからね! 今日はペーシェ ダプリーレよ』


 四月一日。 一年に一日だけ嘘をつく日だ。 クロードの腕がゆっくりと私の肩にまわり、そっと抱き寄せられた。



『女に、嫌いなんて初めて言われたな』


 そんな台詞が嫌味にならない男だ。クロードが微笑めば、どんな女も彼を愛してしまう。

 その微笑みが偽物だと知っていても、深みにはまって抜け出せなくなる。

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