主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
平安町の屋敷へ戻って来ると息吹が真っ先に向かったのは、晴明の母が弔われている裏庭の竹林だった。


道中咲いている花を摘み、墓の前に着くと周りをその花で飾り立て、手を合わせる。


「帰ってきました。私も父様も無事です。また綺麗にしてあげるね」


「息吹は優しい子だね。さあ、水を汲んでおいで。少しでいいからね」


「はい」


井戸まで水を汲みに行っている間、晴明は墓を見下ろし、微笑みかけた。


「母上…私の人生に今大きな転換期が訪れているようです。あんなに小さかった娘が私と十六夜を振り回しているのですよ、信じられますか?」


話しているうちにふつふつと笑いが込み上げてきた晴明が肩で笑っていると…


かさり。


――枯葉を踏む音がしたので息吹かと思いつつ振り返ると、そこには誰も立っていなかった。


この竹林には野に生きる獣も多く生息しているので特に気にかけることなくまた墓に瞳を戻すと、息吹が手桶に水を沢山汲んでよろよろしながら戻ってきた。


「少しでいいと言ったのに」


「でもしばらく帰ってこれなかったし喉が渇いているだろうと思ったから。父様、一緒に綺麗にしましょうね」


「ああ」


晴明にとっての息吹は本当に血を分けた娘のような存在で、息吹を幸せにしてやるための努力を母の墓の前で誓った。


「あの不器用者の元へ嫁にやるのは正直気が進まぬが…」


「え?今何か言いましたか?」


「いいや、なんでもないよ。それより息吹、父様と二人きりなのは久々ではないか?邪魔者が居らぬ故庭でも愛でつつ晩酌に付き合ってもらおうか」


「はいっ。でも父様、私…これからも幽玄町へ遊びに行ってもいいですか?主さまはきっとめんどくさがってここまで来てくれないと思うから」


「そうかな?明日にでも来そうな勢いだと思うが。遊びに行くのは構わないよ、ただし私にも意中の人が居るから一緒に行こうか」


…2人の顔に主さまが“その笑みを引っ込めろ”といつも注意してくる笑みがみるみる浮かび、手を取り合うと屋敷へと戻った。


「父様、今日は一緒に寝てくださいっ」


「ああ、いいとも」


主さまが悔しがる顔が浮かび、にやり。
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