主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
それは軽い口づけだった。
およそ主さまらしくなく、すぐに離れると畳んだ紙をまた広げ、息吹の目の前で貝をひらひらと振ると紙の上に置いた。
「主さ…?」
「息吹は十六夜のことが好きですか?息吹が好きな男とは十六夜のことですか?」
「!」
まさか主さまから仕掛けてくるとは思っていなかったし、軽くと言えど唇にまだ余韻が残っていて戸惑っていると、主さまと目が合った。
時々どうしようもなく主さまにどきどきしてしまう息吹は口ごもり、俯いた。
「…ずるいよ…今答えろっていうの?」
「息吹は十六夜のことが好きですか?息吹が好きな男とは十六夜のことですか?」
再度一言一句同じ問いを投げかけられ、主さまがどうあっても今聞き出そうとしている姿勢は強く、意を決して貝を『是』の上に置いた。
「…本当だな?」
「ぬ、主さまのことも好きだし晴明さまのことも好きだし、雪ちゃんのことも好きだもんっ」
普段は素直なのについ意地を張ってしまうと、息吹の性格を晴明と同じくらい熟知している主さまの美貌に、ふわりと笑みが浮かんだ。
「わ…、主さま…今の笑顔、すっごくよかった。ね、もう1度笑って?」
「!…無理だ。もう戻れ」
「うん…。主さま、またね。またこれでお話しようね」
あの紙があれば互いに本音で語ることができる。
ただの“十六夜という妖と、息吹という名のただの女でいられる。
自身の立場を疎んでいるわけではないが、常に人目があるのは確かだ。
今もあの神出鬼没の晴明の目に怯えながら一瞬のすきを突いて息吹の唇を奪ったが…
「ああ、あいつの目が届かない所に行きたい」
息吹が小走りに去り、寝転がった主さまがそう呟くと…
かさり。
歯を踏む音がしたので竹林の奥に目を遣ったが…誰も居ない。
この晴明の屋敷は結界が張られているのでそこそこ力のある者しか出入りはできないのだが…
「…気のせいか?」
――とにかく息吹が少しでも自分に好意を抱いているのはわかったが…晴明や雪男と同じでは納得できるはずもない。
「好きな男とは誰だ、息吹」
どこまでも、鈍感。
およそ主さまらしくなく、すぐに離れると畳んだ紙をまた広げ、息吹の目の前で貝をひらひらと振ると紙の上に置いた。
「主さ…?」
「息吹は十六夜のことが好きですか?息吹が好きな男とは十六夜のことですか?」
「!」
まさか主さまから仕掛けてくるとは思っていなかったし、軽くと言えど唇にまだ余韻が残っていて戸惑っていると、主さまと目が合った。
時々どうしようもなく主さまにどきどきしてしまう息吹は口ごもり、俯いた。
「…ずるいよ…今答えろっていうの?」
「息吹は十六夜のことが好きですか?息吹が好きな男とは十六夜のことですか?」
再度一言一句同じ問いを投げかけられ、主さまがどうあっても今聞き出そうとしている姿勢は強く、意を決して貝を『是』の上に置いた。
「…本当だな?」
「ぬ、主さまのことも好きだし晴明さまのことも好きだし、雪ちゃんのことも好きだもんっ」
普段は素直なのについ意地を張ってしまうと、息吹の性格を晴明と同じくらい熟知している主さまの美貌に、ふわりと笑みが浮かんだ。
「わ…、主さま…今の笑顔、すっごくよかった。ね、もう1度笑って?」
「!…無理だ。もう戻れ」
「うん…。主さま、またね。またこれでお話しようね」
あの紙があれば互いに本音で語ることができる。
ただの“十六夜という妖と、息吹という名のただの女でいられる。
自身の立場を疎んでいるわけではないが、常に人目があるのは確かだ。
今もあの神出鬼没の晴明の目に怯えながら一瞬のすきを突いて息吹の唇を奪ったが…
「ああ、あいつの目が届かない所に行きたい」
息吹が小走りに去り、寝転がった主さまがそう呟くと…
かさり。
歯を踏む音がしたので竹林の奥に目を遣ったが…誰も居ない。
この晴明の屋敷は結界が張られているのでそこそこ力のある者しか出入りはできないのだが…
「…気のせいか?」
――とにかく息吹が少しでも自分に好意を抱いているのはわかったが…晴明や雪男と同じでは納得できるはずもない。
「好きな男とは誰だ、息吹」
どこまでも、鈍感。